全体像
担当しているコンテンツ業務は、大きく5つの形式に分かれます。形式によって、AIを入れる場所も、人が決める場所も違います。

| 形式 | どんな業務か |
|---|---|
| 通常記事(TIPSまとめ) | 過去記事や社内資料のTIPSを、ワンテーマでまとめる標準的な記事。企画から公開まで |
| インタビュー | 顧客や協力企業、社内へのインタビューを、文字起こしから記事にする |
| イベントレポート | 月1〜2件開催するオンライン・オフラインイベントの音声や動画を、記事にする |
| メルマガ | 完成した記事を読者に届ける、配信の文面づくり(主な閲覧の入り口) |
| SNS投稿 | 記事の要点を、投稿の文字数に収めて発信する |
成果のあらまし
公開までの日数と指摘数は、TIPSまとめ記事の場合です。指摘数は記事により異なります。公開までの日数は、レビュー担当者の確認時間にも左右されるため「最短」としています。インタビューは先方の確認が入るため、もっと長い期間がかかります。
開封率30%超、メルマガの配信頻度(週3〜5件)、記事の公開頻度(週1〜2件)は、AI導入前に到達した水準です。導入後も維持できています。
背景と課題

① 2023年11月まで:リーダーが実務も兼務
マーケ部門のリーダーであるマーケティング担当が、Web広告の運用、LPO、その他の施策を全般で見ながら、メルマガの配信と、そのネタになる記事の制作まで直接行っていました。法務担当の方がサポートする体制で、担当者が個人的にスキルを持っていたことで回っていました。
ボトルネックは人的リソースでした。メルマガと記事に十分な時間を割けず、コンテンツの配信頻度が下がっていました。
② 2023年11月〜:ディレクターが実務を引き受けた
外部のディレクターとして入り、コンテンツ領域の実務を、マーケティング担当に代わって引き受けました。ライターを含む体制をつくり、リーダーはマネジメントに専念できるようになりました。メルマガの開封率とクリック率も、この体制のもとで現在の水準まで上がり、配信ペースも上がって維持できるようになりました。
③ 2025年中頃〜:AIを導入した
次の課題は、この体制をどう軽くするかでした。ライターが書く前に、書き手によって解釈に幅が生まれる部分が多く、レビューと担当者間のやり取りに時間がかかっていたためです。2025年中頃、生成AIが仕事で実用できる水準になったことを受けて、導入を始めました。クオリティを維持しながら、レビューの工数と担当者間のコミュニケーションの工数を減らすことを目標にしました。
やったこと

形式ごとに、何がどう変わったかを順に説明します。各項目は、見出しをクリックすると詳細が開きます。
A. 通常記事(TIPSまとめ)

過去記事のTIPSをワンテーマでまとめる、標準的な形式です。図は、ライターと分業していた時期の流れです。
企画案の作成:半分以下の時間に
導入前は、サイト内検索で、どのテーマでまとめられるかを目視で精査していました。導入後は、過去記事を1つのデータベースにして、キーワードで抽出します。採否と優先度は人が決めます。1時間で2〜3件だった作成が、30分で同程度になりました。
記事構成の作成:問いを先に決めてから組む
最初に、中心の問い、扱わない範囲、根拠の中心、独自の主張をどこまで出すかを、1問ずつ確認してから構成に入ります。章ごとに止まり、人が確認してから進みます。
記事の作成とチェック:作成と確認を分ける
1節ずつ、AIと壁打ちしながら書きます。「作成」と「作成後のチェック」は別の仕組みに分けました。同じ会話で両方を行うと、会話が長くなって文脈が失われたり、目的が2つある作業でAIが混乱したりしたためです。
チェックはさらに「読者への配慮」と「誤字脱字・表現」に分けました。社内レビューの初期には、エンジニアの読者が違和感を覚える表現への指摘が特に多く、そこに集中して改善するためです。作成後のチェックの中で、図解の挿入箇所と画像の指示も出します。
ライターとの分業とレビュー:解釈の幅を最初から言語化する
最大の詰まりは、「この節で何を、どの強さで書くか」の判断が、書き手によって揺れることでした。書き手によって解釈に幅が生まれやすい部分を、最初から言語化する手順を2つ入れました。
1つ目は、本文を出す前に、その節の主張、根拠、言いすぎる危険、根拠の弱い点を、書き手向けに明示する「執筆前カード」です。2つ目は、構成の前に、ディレクターの意図をライターがどう理解したかを、ライター自身の言葉で確認する手順です。AIは要約も補足もせず、説明を引き出して記録する役に徹します。
主張の一貫性を保てるようになり、手戻りを予防できました。執筆段階のライターとのやり取りは4〜5回から1〜2回に、構成の修正は合計3回程度から1〜2回の往復になりました。社内レビューの指摘は、初期の10件以上から、1〜2件またはほとんどゼロになりました。1記事あたりのレビュー工数は、30〜60分から5〜10分です。
運用を保つ:修正を仕組みに戻し、不具合は自力で直す
1記事を終えるたびに、その記事で出した個別の修正指示を反映した改訂版を、AI自身に作らせます。その版を次の記事から使います。レビューの指摘が減ったのは、この繰り返しの成果です。
2026年7月には、それまで問題なく動いていた仕組みが、突然指示に従わなくなりました。途中で文脈が初期化されたように振る舞う、参照元に入れていた別の仕組みの指示文を拾って出力する、といった症状です。原因は、AI側のモデルの更新でした。更新によってプロンプトの受け取り方が変わり、参照元の指示文が実行すべき指示として拾われていました。
原因を切り分けたうえで、参照元を過去記事だけに整理し、品質の基準は各仕組みの指示欄に直接組み込むようにプロンプトを更新して、解決しました。AIを活用しながらも、不具合が出たときに原因を突き止めて自分で直せる状態にしています。
この形式の結果:記事制作の担当者は、ディレクターとライター2〜3名から、ディレクター兼ライター1名に(2026年8月頃から)。公開までは、全往復で1週間程度かかっていたところから、最短2〜3日に。
サンプルを見る(題材を架空に置き換えたもの)
【執筆前カード】節:「スカウト文に『なぜあなたか』を入れる」
・この節で一番伝えたい主張:宛先の理由を1文入れるだけで、受け取る側は「自分に向けた連絡」と判断しやすくなる
・根拠として使う記事・事例・発言:既存記事A(該当箇所)、導入企業のインタビューB(該当箇所)
・避けるべき一般化・言いすぎ:「入れれば返信が増える」と断定しない。事例の範囲で書く
・現時点でロジックが弱い点:返信率の数字は他社事例が1件のみ。本文では事例として紹介する
※書き手向けのメモです。OKをいただくまで本文は書きません。
論点:この記事で扱う範囲
ライターの理解:(ライター本人の言葉。AIは補足も訂正もしない)
ディレクター確認欄:□ 出す □ 出さない □ 表現を変える(強弱: )
コメント:
1. 今回の記事が答えるべき中心的な問いは何ですか?
2. 今回の記事で扱わない範囲、広げない論点はどこですか?
3. 根拠の中心に置く記事・事例・発言は何ですか?
4. 独自の価値観や主張は、今回どの程度まで前面に出してよいですか?
※1問ずつ、回答を受けてから次へ進みます。
【Must】該当箇所:「優秀なエンジニアを確保する」
理由:人を数や資源のように扱う表現に読めます。
代案:「優秀なエンジニアに協力をお願いする」。実務の具体性は保っています。
【Want】該当箇所:「ターゲットを獲得する」
理由:狩りを連想させる言い回しです。
代案:「届けたい方に出会う」
総合判定:注意 / 最後の一言:(公開前に意識することを1行で)
1. タイトル案 2. 今回の切り口 3. 企画の狙い 4. 抽出元の記事(3〜5件) 5. 抽出する実践的TIPS
前提:読者の主な流入経路はメルマガで、全員が毎回の記事を読むわけではない。同じテーマ・事例の再掲は問題ないが、見せ方は変える。
今回の一連の工程で、私から個別に出した修正指示を反映したうえで、最初のプロンプトを修正してください。
B. インタビュー

顧客や協力企業への社外インタビューと、社内インタビューです。文字起こしから記事にします。
これまで:委託と、録画をすべて聞く作業
インタビューから記事化までをライターに委託していました。記事化のために、録画をすべて再生して耳で聞く必要があり、大きな工数がかかっていました。
いま:文字起こしはAI、誤変換は人の手で修正
大まかな文字起こしはAIで終え、不明瞭な部分や誤変換を、直接耳で確認して修正します。文字起こしには、自作のツールを使っています。作業時間は約5時間から約2.5時間になりました。ディレクターが、インタビューから記事化までを1人で完結できるようになり、ディレクターとライターの間のやり取りもなくなりました。
この形式の結果:約5時間→約2.5時間。委託先とのやり取りの工数もなくなりました。
インタビュー記事は先方の確認が入るため、公開までの期間は通常記事より長くなります。同じ理解確認の手順は、BtoBの導入事例のインタビュー(07の事例)にも展開しています。取材前にインタビュアーの理解を確認し、内容のずれを防いでいます。
C. イベントレポート

月1〜2件開催しているオンライン・オフラインイベントの音声や動画から、記事にします。
これまで:録画をすべて聞き、レビューと修正にも手間
録画をすべて聞いて記事化していました。イベントで話してよい内容でも、記事には出したくないものが含まれるため、出席者のレビューと修正にも手間がかかっていました。
いま:文字起こしはAI、レポートは要約型に
インタビューと同じく、文字起こしはAI、不明瞭な部分や誤変換は人の手で修正します。作業時間は約5時間から約2.5時間になりました。
あわせて、話した内容を忠実に再現するレポートから、ポイントを要約するレポートに切り替えました。これはAIとは別の、進め方の見直しです。レビューで引っかかる箇所が減り、公開前の修正は2〜3時間から30分程度になりました。
この形式の結果:約5時間→約2.5時間(AI)。公開前の修正は2〜3時間→30分程度(要約型への見直し)。
D. メルマガ

記事が完成したら、オペレーターに連絡します。オペレーターが所定のフォーマットに文章とリンクを入れた「たたき台」を作り、それをもとに文面を仕上げます。
これまで:すべて手作業で1通1時間程度
元記事、過去記事のデータベース、たたき台をもとに、すべて手作業で文面を作っていました。1通あたり1時間程度です。
いま:AIが修正案と理由を出し、20〜30分に
たたき台の時点でAIに渡します。AIは、以前に手作業で作っていたときの文章のポイントをもとに、修正案と、その理由を出します。1通20〜30分程度になりました。初期の文面は、自分で作ったものの品質に及びませんでしたが、作るたびに修正のポイントを仕組みに戻し続けた結果、ポイントを押さえた文面が出るようになりました。
メルマガにも図解を入れられるようになりました。工数の都合でできなかったことで、記事への誘引にも役立っていると考えています。
この形式の結果:1通1時間程度→20〜30分。配信頻度(週3〜5件)、開封率30%超、クリック率は維持しています。
E. SNS投稿

これまで:要点の抽出と、元記事の読み直しに時間
元記事を読み直しながら、要点を投稿の文字数に収めて、すべて手作業で作っていました。短い文章のため、時間がかかるのは作文よりも、元記事の内容を自分に入れ直す部分でした。
いま:AIが候補を出し、人が選ぶ
元記事と過去記事のデータベースを渡し、AIが訴えたいポイントの候補を出します。どれを入れるかは人が選びます。選んだ要素をもとにAIが3パターンの文面を出し、最後に整形と文字数の調整をします。1件30分程度から、10〜15分程度になりました。
この形式の結果:1件30分程度→10〜15分程度。
サンプルを見る(SNS投稿)
カテゴリ① どんな記事か:(候補を5つ程度)
カテゴリ② 得られる知見:(候補を5つ程度)
カテゴリ③ 読者へのフック:(候補を5つ程度)
※ここで止まり、人が3〜4つ選んでから、ベースの文を3案(王道/共感/引き算しやすい)出します。
実際の仕組みは先方の業務で使っているため、そのままの形では掲載できません。サンプルは、題材を架空に置き換えたものです。
結果

これまで2〜3名が必要だった記事制作を、1名で担当できるようになりました。形式ごとの変化を、あらためて並べます。
| 形式 | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 通常記事(TIPSまとめ) | ディレクター+ライター2〜3名。公開まで1週間程度 | 1名。最短2〜3日。企画案は半分以下の時間 |
| 通常記事のレビュー | 指摘は初期に10件以上。工数は30〜60分 | 指摘は1〜2件、またはほとんどゼロ。工数は5〜10分 |
| ライターとの分業 | 執筆段階で4〜5回のやり取り。構成の修正は3回程度 | 1〜2回。構成の修正は1〜2回の往復 |
| インタビュー | 約5時間。委託先とのやり取りあり | 約2.5時間。1名で完結 |
| イベントレポート | 約5時間。公開前の修正は2〜3時間 | 約2.5時間。修正は30分程度(要約型への見直しによる) |
| メルマガ | 1通1時間程度 | 20〜30分。図解も入れられるように |
| SNS投稿 | 1件30分程度 | 10〜15分程度 |
配信のペース、開封率、クリック率は、AI導入前の水準を維持しています。メルマガは週3〜5件、記事は週1〜2件の公開を続けています。担当者が減ったことで、担当者同士のコミュニケーションコストが下がり、担当者ごとのリテラシーの差によるコンテンツのブレも小さくなっています。
現在もAIの導入は途中で、形式ごとの仕組みを更新し続けています。
いまのサービスとのつながり
この仕事で大事にしていたのは、AIの出力の質を上げる前に、書き手によって解釈に幅が生まれやすい部分を、最初から言葉にしておくことです。
その節で何を主張するか、どの強さで言うか、どこから先は言いすぎか。ここが書き手の頭の中にあるうちは、書き手が変わるたびに記事の主張が揺れます。先に言葉にして渡しておけば、主張の一貫性を保て、余計な手戻りも防げます。
会社の“らしさ”を言語化するときも、同じ構造です。当事者の頭の中にだけあって、人によって解釈が分かれる部分を、誰が使っても同じ意味に伝わる言葉にする。ナラティブ構築サービスがやっているのは、対象が記事の主張から会社の軸に変わっただけの、同じ仕事です。